整流回路とリサジュー図形

遥か昔々の話になるが、大学の学園紛争の頃に半年間の内地留学(東京工業大学、宮入・片岡研究室)でパワーエレクトロニクスという半導体素子での電力制御や動力制御の最先端の学術研究の雰囲気を経験する機会に恵まれた。電気回路の深い意味を解析する電気技術の魅力に傾倒し、基本回路動作を実験を通して確認する事が出来た。最初が電力半導体整流回路であり、それが末尾の文献である。当時既にトランジスタで汎用の電動機を制御したり、鉱石運搬巨大車両を制御するアメリカの最新技術に驚嘆した。その頃高等学校の電気実習でも、半導体素子に因る電動機制御を採りいれるべきと勝手に思い込んで、学習指導要領の内容にそぐわない生徒実習を行っていた当時を苦笑する。正弦波交流回路だけでは、伝統的業績・過去の法則尊崇の念に縛られて、電気回路現象の奥に秘められた『エネルギー』感覚は身に付かないと思う。その正弦波をスイッチングすることで、はじめて回路内の『エネルギー』処理の意味が感覚的に理解できる筈だ。その『エネルギー』には決して質量は関係していない事を理解し、物理学の質量に依存した『エネルギー』感覚から脱却できる手掛かりになろう。今回は、30年程前に考えた電力系統の制御・監視システムの瞬時電力理論でのリサジュー図形の意味を基本的なところで復習しておこうと考えた。初心者の理解に役立てば良いのだが。
三相全波整流回路 電気回路技術は半導体と言う分類に入る元素(シリコンやゲルマニューム)の存在とその特性に負う科学技術の微細構造素子の開発に因って現代社会構造が構築されたと言っても過言ではなかろう。電力回路技術の基本回路に整流回路が有る。    三相全波整流回路 6個のダイオードを繋ぐだけで、三相交流から直流電圧に変換できる。電源が三相平衡電圧ea 、eb およびecとする。線間電圧実効値Vとする。直流電圧の平均値Vdは1.35Vとなる。半導体素子のダイオードは何の制御機能もないが、その両端に掛かる電圧極性だけで、自動的にスイッチング動作をする極めて便利な素子である。この回路動作を理解するには、半波整流回路でのダイオードのスイッチングを考えると良いかもしれない。蛇足ながら、p側ダイオードA,B and C とn側のA’ ,B’ and C’ のスイッチングに分けて考える事にしよう。

p側ダイオード素子のオン区間

    p側ダイオードのスイッチング 三相交流電圧の内で一番電位の高い素子がオンする。その時他の素子には自動的に逆バイアスの電圧が掛ることになる。一つの素子がオンすれば、他の素子は必ずオフとなり、極めて回路動作が安全に保たれる訳である。n側ダイオードも同様に素子の電圧極性で、自動的にn点に電源電圧の最も低い電圧の相の電位が繋がる。

オン素子と整流電圧

オン素子と直流電圧 電源電圧の最大値の相と最低値の相が自動的にダイオードのスイッチングで、プラスのp点とマイナスのn点につながる。その結果、線間電圧で最大値の相が負荷側の直流電圧となって現れる。図3に示したようになる。直流電圧も電源周波数の6倍の微小変動の波形であるが、リアクトルが有ると負荷抵抗には平滑された電圧波形のVdが掛ることになる。

オン素子と電流

導通素子と電流波形 三相のダイオードと電流波形を色分けして示した。三相交流電流ia、 ibおよび ic は電圧波形が正弦波であるにも拘らず、矩形波電流となる。しかも導通区間2π/3の波形である。この電流波形になる訳は何が原因か?電源電圧波形が正弦波でありながら、各相電流波形は急峻に直流電流値Idに立ち上り、一定電流のまま2π/3流れて再び瞬時に零になる。この原因はすべて直流負荷側の(平滑)リアクトルLの『エネルギー』貯蔵に関わっている。その『エネルギー』には決して質量等関係しない事を物理教育で指導しているだろうか。この『エネルギー』は光の『エネルギー』と何も違わない『エネルギー』と言う実在物理量なのである。リアクトルは『エネルギー』に対して貯蔵するにも、放出するに、その変化に抵抗する機能が強い回路素子である。整流回路の整流作用が瞬時的応答でダイオードの優れたスイッチング機能が発揮される訳にリアクトルの特性が関わっていると観ることもできよう。

リサジュ―図形と瞬時空間ベクトル 上の図4の電源側の三相交流電流は特徴的な波形であり、電力供給側の電源にしてみればその電流が系統にどのような影響を及ぼすかを捉えておかなければならない問題であろう。その特徴的な波形であるから、単に線路電流波形を観測するだけでは物足りなくは無いかと思う。電源側でそれが三相整流回路負荷に因る物と観測できれば、観測・制御に有効であろうと考える。その電流波形の特徴をリサジュー図形で示してみよう。これは30年程前に手掛けて諸般の事情で頓挫した考えでもある。その後利用されているかどうかは、筆者は関わった事が無いので分からない。

スイッチングとリサジュー図形 電気回路現象をリサジュー図形上で判断・認識する手法。ここで取上げた三相整流回路は電源に線路インピーダンスが無い特殊な場合ではあるが、線路電流が特別な波形であることから、瞬時電力理論の空間ベクトルの軌跡をリサジュー図形で観測すれば六角形を示す。六角形と言っても電流ベクトル i は六角形の各頂点の静止ベクトルで、瞬時に次の頂点にジャンプし、六角形の線上には無い。電圧ベクトル e は電源電圧の角周波数 ω の一定速度で円周上の軌跡を描く。リサジュー図形はオッシロスコープの入力信号に三相ー二相変換情報を採りいれる必要があり、その基礎的理解が必要である。その意味を初心者でも理解できる解説が必要と思うので、別に改めて述べたい。ここでは、瞬時電力理論の空間ベクトルについては従来の電気理論ではなかなか理解し難いかもしれない。関連記事と30年前の資料を参考文献として挙げる。

(文献) 静止電力変換回路の基礎(1) (電力用半導体整流回路)  新潟県工業教育紀要 第7号 p.165.~179. (昭和46年)

この記事の中味で、測定データとして興味ある内容が載っている。誰も調べないだろうと言う意味で貴重に思える。第18図 ωoとα、βの関係 のグラフである。この単相半波整流回路は実用性の全く無い回路の実験データではあるが。ωoは負荷のL/Rで、驚いたことにこれが『時定数』であり、今年の回路解析の記事に通じている。単相半波整流回路はリアクトルの『エネルギー』の意味を理解するには良い回路だ。その記事を抜粋して載せさせてもらう。

消弧遅れ角の実験結果 既に『時定数』が回路動作を決めると考えていたようだ。

(参考文献) 空間瞬時ベクトルと交直変換器への適用 電気学会 電力技術研究会資料 PE-86-39 p.71.(1986)

(参考記事) 三相交流瞬時空間ベクトル (2017/04/07)

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください