久しぶりに三相交流回路について考えてみる機会を得た。30年以上も昔に少し専門的に取り組んでいた電気現象の話でもある。今長い科学漫遊の末に辿り着いた、電線路上における『空間エネルギー』概念に基づく新しい電力系統解釈論とでも言うものかも知れない。電力技術論としての長い伝統のある電力理論に『瞬時虚電力』の意味を、その物理的(物理学的ではない)現象解釈を取り入れた教育指導法となろうか。三相交流回路の無効電力について考えてみたら、分からない事が多くあることに気付かされた。昔工業高校で、電気工学の授業準備をしていた頃のことを思い出した。黒板にどのような板書で図形表現をしたら子供達が分かり易いかと工夫を凝らした事を。皆さんはどのように無効電力の意味を解説しているかと検索してみた。私が疑問に思うことに答えている解説は残念ながら見当たらなかった。能力不足乍、少し元から無効電力の意味を考えてみようかと思った。
無効電力の不思議 電線路上のある点で負荷側の無効電力を測定しようとする。測定量は線間電圧実効値Vと線路電流Iおよびその電圧と電流の波形上に現れる位相差角度θのみである。それだけの測定結果によって無効電力は確かに算定は出来る。伝統的電力理論によって。しかしその物理現象を捉えようとすると、不思議にも捉えようがない事に突き当たるのだ。
電線路の無効電力 無効電力は現実には無理であるが、負荷が一定で安定した特殊な場合に限定して、無効電力Q=√3VIsinθ[Var]と判断する。
電力ベクトルと無効電力 電圧と電流の位相差に因って、電力の有効電力と無効電力を電力ベクトルとして直交三角形で解釈する。このように、ベクトル図形で、『電力円線図』などによって電力系統の状態を解釈する。しかしこの無効電力を計算で算定しようとすると?その事をまず取り上げて、無効電力の負荷要素のエネルギーの挙動まで調べてみようと思う。
三相交流電力 以下の三相交流電圧はすべて、相電圧波高値Emの平衡電圧として考える。
(1)抵抗負荷
抵抗負荷の電力 三相電力配線はその有効電力が一定値の直流電力に成ることにその優れた点があると言えよう。三本の電線路で囲まれた線路空間を通して一定のエネルギーが伝送されるのである。
(2)誘導性負荷 一般の無効電力の原因となる回路要素は負荷に含まれるインダクタンスである。そのインダクタンスLのみの負荷の電力を計算してみよう。
誘導性負荷の電力 インダクタンス負荷の三相電力を計算すると、その値は「ゼロ」となる。結局無効電力は電源側からは何も送って居ないのである。この事が良く認識しなければならない重要な点である。何も電力を送って居ないにも拘らず、電源側にとっては誠に厄介な電力成分となっているのである。電力零でありながら、系統への影響が大きいのだ。無効電力と言う電力は供給エネルギーの時間微分ではないが、電線路上に影響を及ぼす原因は『エネルギー』以外ないのである。電子による『電流』概念ではその本質に迫れない筈だ。電力ベクトル図では何となく理屈に合っているように思われるかもしれないが、それはあくまでも電気技術に基づく解釈法でしかないのだ。
(3)容量性負荷の電力 同様にコンデンサ負荷の場合も計算してみよう。
容量性負荷の電力 三相電力が零に成るのは無効電力であるから当然な事であるが、その意味を考えて納得しておく必要があろう。いわゆる物の理屈(物理)として。
負荷の回路要素としてのエネルギーの振る舞い 前に単相回路については電気回路要素のエネルギー(数式と意味)で解釈を示した。三相回路ではまたエネルギーの相間での回転の意味を知っておくことも大切であろう。そんな意味を踏まえて『エネルギー』から三相の負荷の様子を眺めてみよう。
三相電線路空間のエネルギー
三相電線路とエネルギー 三相電線路は地中ケーブル配線もあるが、電柱の市内配線や街外れの鉄塔が目に付く。三本の導線で電気(エネルギー)を配電している設備だ。未だ導線内を電子が流れてエネルギーを供給していると考える教科書の理論が支配的であろう。その電子論も少し考え直してみば、説明の付かない点に気付こう。電線の表面に強い電磁エネルギーの高密度空間ひずみが存在している。それはもし電線の中味をくり抜いて表面だけの中空電線にしても、殆ど同じ表面の電磁エネルギーひずみがある筈だ。電子が電線の中を流れると解釈するなら、電線の外に電磁エネルギーのひずみをもたらす原因が電子に因ると考えざるを得ないが、それならその歪みのエネルギーは電子が電線の外部まではみ出してエネルギーを広げていると言うのだろうか。送電線には傍に行くと『ジー』と言うコロナ放電の音がする。それは空気が電線の表面に電子の電荷が高密度で分布し、空気の絶縁破壊を起こしている放電現象と電気工学では解釈されている。その絶縁破壊を起こした『エネルギー』は電子の電荷がエネルギーに変換された現象と観るのだろうか。『エネルギー保存則』と言う物理現象の大原則を厳密に認識するなら、曖昧に過ごす訳にはゆくまい。『電荷』とは便利に理論上『エネルギー』に変換するものなのだろうか。コロナも光としてエネルギー放射されているのだ。その光の基は「何」が変換されたのかを理屈として明確にしなければならなかろう。言いたい事は、『電荷』など破棄しなければ、何時までも曖昧な電気理論が科学の矛盾を引き摺り続け、それで良いのかと言う事だ。『エネルギー』は電気だけでなく、すべて空間にその独立した存在なのである。熱なら物質に纏いついて。光なら自由空間を伝播する。だから配電線路や送電線路もその三本の電線の近傍空間を『エネルギー』を運ぶのである。導線はその道しるべの役目である。ただそのような自然現象の本質を科学技術として如何に巧みに利用するかを構築して来た先達の偉業は益々輝くものであろう。しかし教育としてどう取り扱うかが哲学的な視点で再構築されるべき時代に来たと言う事であろう。多寡が配電線路と眺めても、そこには深い意味が隠されている事を認識したい。
三相負荷要素とエネルギー 電気的要素は抵抗R、インダクタンスLそしてコンデンサCの三つである。実際の電気回路にはアーク炉や負荷断続や複雑な負荷が繋がれて、その電気現象は瞬時的変動の連続状態を呈する。その苛酷な電力需要の要求に対応するには補償装置や安全対策が講じられている。先ずはそれぞれの単独の回路要素負荷についてそのエネルギーの振る舞いを理解しておく必要があろう。
三相交流回路のエネルギー 負荷をStar結線で考える。LとCはエネルギー貯蔵機能要素と看做される。しかし抵抗Rはそのエネルギーの意味を考えると、少し複雑に思える。電力はエネルギーではなく、エネルギーの消費率であるので、捉え難い点がある。モーターの仕事を思えば、回転体には誘導性のエネルギー貯蔵機能があり、仕事として消費されるエネルギーは仕事率の動力ワットである。その動力が抵抗の機能に相当するものである。先ずはLとCについて、その貯蔵エネルギーの振る舞いを尋ねてみよう。
電圧と位相 負荷印加電圧の位相で要素のエネルギー貯蔵量がどのように変動するかを調べるその基準を示す。
三相電圧と位相 三相電圧のa相電圧ea=Em sin ωt 、b相電圧 eb=Em sin (ωt-2π/3)、c相電圧 ec=Em sin(ωt-4π/3) として、a相電圧を基準にして考える。1サイクルを12等分して、その各状態のエネルギー量を比較する。
(2018/10/30)追記。以下の記事が間違っていたかもしれない。少し時間をかけ検討したい。各相電流の2乗の和の係数が3/2となる処を単に3と間違った。(2018/11/01)追記。誘導性負荷の記事の内容で筆者の計算間違いに気付き、混乱し大変迷惑を掛けたことお詫びいたします。一応三角関数の計算の係数3/4とすべきところを3/2と誤っていたので、訂正した。
誘導性(L)負荷のエネルギー
誘導性(L)負荷とエネルギー分布 三相負荷に対して、相順ABCを図のように時計回りに配置した。位相3はa相電圧が最大値の時である。図の円外に矢印でベクトルを記した。そのベクトルeは別の記事での瞬時電力ベクトルの場合に関係する記号であるが、その位相に従って回転する空間ベクトルを付記して示した。e=√(3/2) (ea+eb+ec) であるが、ここでは瞬時ベクトル解析論とは回転方向が逆になっている。さて、図の様子を見れば、Lのエネルギー分布が反時計方向即ち電圧ベクトルの回転方向と逆向きに移動していると観れる。電圧1サイクルにエネルギーは逆相順で2サイクルとなっている。そのエネルギー量は総和で、Wl=(3/4)Em^2^/(ω^2^L)の一定値である。(2018/10/30追記) 係数が(3/2)でなくて(3/4)かも知れないと気付いたので計算の確認をする。wl(J)分布図も間違いかもしれない。(2018/11/01追記)Wlの係数を(3/4)に訂正した。wl(J)の分布図は正しかった。図では、そのエネルギー分布が1+2(1/4) の場合と2(3/4)の場合との二通りである。その円の半径1とは、全貯蔵エネルギーの2/3で、結局エネルギー量(1/2)Em^2^/(ω^2^L)の意味になる。
容量性(C)負荷の場合 コンデンサの場合のエネルギーの相間分布の様子をリアクトルと比較してみよう。
容量性負荷のエネルギー分布 Lの場合と比べて電圧位相に対する様子が違う。当然の事であるが図で表現すると分かり易い。電源周期の2倍周期で負荷内でエネルギーが回転している。
抵抗負荷の電力分布 エネルギー変換消費要素の抵抗ではエネルギー量を捉えることは出来ない。電力分布で示す。
抵抗の電力分布 電圧回転ベクトルe とやはり逆向きに電力分布が回転している。抵抗負荷については、そのエネルギーを捉えることが出来ない事も電気技術量(電圧、電流及び電力)の意味に不思議を思う。負荷抵抗はエネルギー変換機能要素だから、要素が吸収するエネルギーと放出(消費)するエネルギーがある平衡状態に在るからだ。
瞬時無効電力の算定法は如何にするか? この解決法が『瞬時電力理論』である。どんなに電圧、電流が変動しても瞬時の無効電力を算定できる。その解釈を電線路空間のエネルギー挙動から次の記事で考えてみたい。(2017/09/14)この負荷と無効電力についての基になる記事電気回路要素のエネルギー(数式と意味) (2016/08/16)がある。
(2017/07/14)追記 今年になって電気工学分野の電気回路解析を『エネルギー』からまとめて分かり易い解釈法は無いかと模索してきたが、次に記事でと言う予定にも辿りつけないでいる。電気回路の『時定数』の意味に改めて深い意味があることを知り、行き先未定の途上にある。(2017/09/14)何とかこの『時定数』に関する回路解析については時定数から観る電気現象及び時定数と回路問答にまとめた。