再び、載せたくて。壁に掛けている額がある。お正月の内でもあるし、ご覧ください。
摘草圖
解説 蹄齊北馬の解説が裏打ちされている。傍にこんな版画を飾っておくなど、畏れ多いようにも思う。髪の生え際、着物の紋様の重なり方、ヨモギか薬草を摘んでいるのであろう。その多色刷りの境界の寸部違わぬ刷りの見事さ。絵師の絵の美しさ以上に、摺り師の腕前が如何に卓越した技量で有ったかに驚嘆する。この繊細な腕前が古き日本文化の底知れぬ深さを物語っている。職人の魂が光っている。資本主義の現代精神と比べたくは無いが。名も残らぬ摺り師にこそ拍手を送りたい。知らない者が想像してはいけないが、この版画の世界は当時の一大企業集団であったのかも知れない。絵師はその中のエリートであり、時代の文化創造の旗手であったのだろう。しかし細密な絵柄を版木に彫る彫師がいなければ出来ない事業であった筈だ。例えばサクラの版木に彫るとなればどれ程の彫刻刀の切れ味が要求されるかと考える。今と同じ版元も有っただろう。こんな事をこの版画を見ながら考える。
満月に湖上遊船、と勝手に題を付ける。仲秋の名月を湖上で楽しむ。そんなさび、侘びの世界に見える。いつ頃の誰の作かは知らない。『版権所有 西宮與作』とある。