新潟県立新津工業高等学校の電気科で16年間(昭和39年4月1日~昭和55年3月31日)、子供達に電気関係の教科を教えて来た。電子工学から始まって、電気機器、発変電および送配電と主に電力関係を受け持った。それらの教科指導に当たって、具体的に理解するには、生徒の実習・実験が重要である。その為の準備を通して実際に回路・設備を作り、勉強した。その内容を、『新潟県工業教育紀要』に投稿して発表した。それらの内容は手元になかったので具体的には確認できなかった。この度、新潟県立図書館にある事を知り、複写で手に入れた。なかなか良く出来ていると、自己満足した。それらの内容の一端を示しておこう。
第3号:分布定数線路実習に関する一考察(p.122~127)
第7号(昭和45年度):静止電力変換回路の基礎(1)~第16号(昭和54年度):同(6)である。その中の電力変換回路の基礎の一部を参考に示す。
第7号:電力用半導体整流回路
単相半波整流 電気回路における回路要素、特にリアクトルの特性を理解するにはとても良い教材である。エネルギー感覚を会得するに良い。正弦波では、その回路要素の機能を知るには物足りない筈だ。
直流偏磁現象 電気回路には変圧器が繋がっている。その変圧器を含む回路では、時に複雑な動作波形が観測される。その中に、鉄心の磁気特性との関係で、直流偏磁現象が起こる。その波形が複雑であるので、その特殊な例として三相半波整流回路を組み、その偏磁現象の解析を波形で示した。ここで取上げた電力用整流回路は電気回路を学習するにはとても良い教材であるから、基礎実験として誰もが経験すべき回路であると思う。当時時代の先端である整流回路の基礎を実際に電気科の生徒実習に取り入れていた。今では実際の日常生活でも、インバータ何々と言う様に半導体制御が当たり前になっている。時代は正弦波では役に立たない学習内容である。現在に至るも当時から電気理論で、磁束が電流によって発生すると言う極めておかしな基本解釈を教育現場で採られている事に大きな問題である事を知るべきである。コイルに掛かる電圧の時間積分で磁束は生じる事を認識すべきである。その事の意味を次の記事が示している。
第8号:トランジスタインバータと単相誘導電動機の速度制御
ロイヤーのトランジスタインバータ この回路(本当のロイヤーの回路とは同じくはないが、鉄心の飽和特性を利用した電圧ー周波数変換原理でそう呼んでいた)はNASAの宇宙関連技術の一つの成果として開発された回路と聞いた。トランジスタ2個でトランスとの単純な回路構成で、印加電圧を変えると周波数が比例して変化する自走発振回路である。この回路の意味を知って、パワーエレクトロニクスの魅力の虜になった。変圧器の鉄心磁束が印加電圧(直流電圧)の時間積分で決まる事を示す象徴的な回路である。洗濯機用コンデンサモータがあったので、その周波数による速度制御特性を調べた実験記事である。この研究は財団法人 産業教育振興中央会の補助を受けたものであった。
第9号:サイリスタによる電動機速度制御
サイリスタ回路構成 サイリスタ6個で幾つかの回路構成に適用できるように工夫した。
ゲート回路 実験するには、その制御回路の制作が主になる。しかも全部自己開発である。今見てもその意味が理解できない程忘れ去ってしまった。特にこのゲート回路で、制御用三相変圧器の制作は良く出来たと。この実験が1年間で完成したのは感心だ。思い出した。この制御回路をどのように作ったかを考えたら、思い出した。大切な本があった。神田の古本屋で購入した、Transistor Circuit Design TEXAS INSTRUMENTS,INC International Student Edition McGRAW-HILL KOGAKUSHA が手元に残っていた。この書籍によって、トランジスタ回路を学習したのだ。
第11号:サイリスタインバータによる単相電動機の速度制御
サイリスタ単相インバータ トランジスタインバータと違って、サイリスタはoffする為には逆バイアス電圧を掛けなければならない。
ゲート回路と実験波形 主回路はインパルス転流並列インバータで、開発者の名をとってマクマレー・ベットフォードインバータとも呼ばれる。動作も少し複雑な為、記事のp.44には動作波形も詳しく説明してある。ゲート回路(マルチバイブレータとフリップフロップの組み合わせ)をどのように設計したか覚えていない。
第12号:サイリスタチョッパ
回路と波形 スイッチのオン、オフで負荷の直流電圧の平均値を制御する方式。スイッチをサイリスタ2個で構成した回路である。
ゲート回路と波形 主回路は極めて単純であるのに、ゲート回路はなかなか工夫した回路である。我ながらこんな回路を組んでいたかと驚いた。電圧は15V位か。
第16号:三相サイリスタインバータによるかご型誘導電動機の可逆加減速駆動
主回路とゲート論理回路 この論理回路を組んだ事はかすかに記憶にある。IC回路を組んだのは初めての事だ。しかし間違いなく正確に回路制御、電動機の可逆加減速運転が出来た。
電動機運転特性 運転特性で、プラッキングによる逆転時間に7秒ほどかかった事が最後の電磁オッシログラフに示されている。この装置だけは使うかとの思いで持ち込み、長岡技術科学大学のパワー研の実験室の棚の上の奥に置いた事を思い出した。
この最後の標題だけは氏名が金沢でなく、金澤となっていた。時には毎年回路を組んで発表したので、お正月は原稿書きで徹夜が多かった。研究と言うより、変圧器造りや回路組立てで、ペンチ、ボール盤、鋸、金槌と半田付けの手作業が殆どであったように思う。そんな中での回路解析を通して、パワーとか「エネルギー」および電流波形解析から感覚的なものが身に付いたようで、それが現在の『電荷』否定や『電流は流れず』に繋がったと思う。