生家の近くに本家が有った。200メートル足らずの所。懐かしく思いだした。お祖父ちゃんは眼光の鋭い、小柄な人であった。何故かグミとの思い出だけが強く残っている。自分の名付け親でもある。
屋敷の入り口の道路際に、グミ(茱茰シュユ)の木が一本あった。相当の太さで、貫禄の有る樹だった。秋と思うが、大粒の赤い実が付いた。信策(シンサク)老人と言われていた、そのお祖父ちゃん(本名はノブツグと言う)にグミの実を採ってくれと頼まれた。手が届かないから、その木に登って実を採ることになる。後で聞いた話だが、お祖父ちゃんの言う事には、「ヨシヒラは自分だけ熟した美味いグミを食べて、俺にはまだ実のっていないグミを採って寄こすからかなわん。」と父に言っていたらしい。今思えば、そんな冗談を言うお祖父ちゃんが懐かしい。その前庭には、池の傍の小高い所に胴周りの太い萱の木が有り、秋には実が成った。父から聞いた言い伝えの話。祖父ちゃんは若い20歳位の頃、村の人を集めて、夜学で教えていたと言う。理数系であったか。また、若い時外国に行くため、家を出奔したが連れ戻されたらしい。
その故郷の思い出になっている事が他に有る。傍に信濃川が流れている。秋にはその河原に行くと岸辺の入り江に、砂の中に落ちて埋もれている『ケンポナシ(クロウメモドキ科と解説にある)の実』を拾って食べるのが楽しみでもあった。とても大きな樹であった。その実を拾って砂を落として口に入れ、噛むととても甘くて、気持ちの安らぎを得る、軟らかい実であった。実は飲み込めないが、噛み締めて、果汁を飲む。そんな自然が懐かしい。